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徳島地方裁判所 昭和30年(行)2号 判決

原告 谷川伊平

被告 徳島市長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、被告の前主名東郡新居町長が原告に対する別紙目録(一)記載の地方税の滞納処分として昭和二十九年九月七日別紙目録(二)記載の不動産に対しなした差押はこれを取消す、との判決を求め、その請求の原因として、原告は別紙目録(一)記載の地方税(以下本件地方税という)を滞納していたものであるが、被告の前主たる徳島市編入前の名東郡新居町長から本件地方税の滞納処分として昭和二十九年九月七日原告所有の別紙目録(二)記載の不動産を差押え、これが通知書の送達をうけた。然しながら右本件地方税中、昭和二十四年度町民税については同年四月ないし六月より四回にわたり賦課されていたので、少くともその一部は地方税法第十四条により本件地方税差押日である昭和二十九年九月七日以前に五年の消滅時効が完成し租税債権が消滅しているにも拘らず同年九月七日差押えたものであるから右差押は違法であり取消されるべきである。仮りに然らずとするも、右昭和二十四年度町民税及び本件地方税中、昭和二十五年度以降の地方税につき地方税法第三百二十九条、第三百七十一条、第四百五十七条の規定による督促状を送達しないで差押処分した違法があるから取消すべきである。仮に右督促状の送達があつたとしてもこれが督促に当つては国税徴収法第九条、同法施行細則第十八条により送達書を作成しこれに受取人たる原告の署名捺印を要するにも拘らず、その手続を経ていない違法がある。又仮りに督促状が送達されたとしても右督促状の指定納期限はすべて昭和二十九年二月二十日以前であり新居村税賦課徴収条例第十二条、新居町税賦課徴収条例第二十二条所定の督促状の指定納期限たる六十日以内に滞納処分に着取しなければならないにも拘らずこれを経過し同年九月七日に差押がなされたもので右差押は同村税賦課徴収条例第十二条、同町税賦課徴収条例第二十二条の各強行法規に違反したものであるからこれが取消を免れない。よつて原告は被告の前主新居町長に対し右租税債権の消滅時効による差押の違法及び督促状不送達による差押の違法を理由として地方税法による異議の申立をしたところ昭和二十九年九月二十五日付右異議申立を棄却せられた、しかしてその後右新居町は徳島市に編入せられたので新居町長の承継者である被告に対しこれが取消を求めるため本訴に及ぶと述べ、被告の本案前の抗弁に対し、本件出訴期間は国税徴収法第三十一条ノ四第二項の適用はないと述べた。

被告指定代理人は本案前の抗弁として原告の訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、本件地方税の滞納による差押は国税徴収法に基く差押でありこれに対する原告の異議申立は昭和二十九年九月二十五日付で棄却決定がなされ同月二十六日原告に到達しているから、本件訴は国税徴収法第三十一条ノ四第二項により右決定をうけた日から三ケ月内に出訴しなければならないにも拘らず、これが出訴期間を徒過し昭和三十年三月二十三日提起されたもので訴訟要件を欠くから却下されるべきであると述べ本案につき主文同旨の判決を求め、答弁として被告が原告主張の地方税の滞納により原告主張の差押処分をしたこと督促状の指定納期限が昭和二十九年二月二十日以前であつたこと、右差押に対する異議申立がありこれを棄却したこと及び原告主張の督促状の送達書を作成せず送達受取人の署名捺印を得ていないことは認めるが、右督促状はいずれも本件差押前使丁を以て送達したものである。その余は否認すると述べた。

(立証省略)

理由

先ず、原告の本件訴が出訴期間を徒過したものであるかどうかについて判断するに、原告主張の差押処分につき原告から被告の承継前の名東郡新居町の町長に対し異議の申立があり新居町長が右申立を棄却したことは当事者間に争がなく、且つ成立に争のない甲第一号証、証人菅村幸人の尋問の結果によれば、右新居町長は昭和二十九年九月二十五日本件地方税の滞納による差押処分に対する異議申立につき地方税法第三百三十一条、第三百七十三条、第四百五十九条に基き審理の結果、原告の申立を棄却し右棄却決定は同月二十六日原告に到達したことを認めることができるが右棄却決定に対する出訴期間については地方税法には特段の規定がないから行政事件訴訟の一般の例により行政事件訴訟特例法第五条第一項所定の六ケ月以内に出訴すれば足りると解すべきであり、原告は右棄却決定到達日たる昭和二十九年九月二十六日から、六ケ月以内である昭和三十年三月二十三日当裁判所に出訴したことが本件記録により明かであるから、本件訴に出訴期間徒過の違法は存しない。よつてこの点に関する被告指定代理人の主張は理由がない。そこで更に進んで本案について審究する。名東郡新居村が昭和二十七年一月一日町制施行により同日以降新居町となつたこと、同町が昭和二十九年十二月三十一日徳島市に合併編入せられたことは公知の事実で当裁判所に顕著なところである。

原告は、本件地方税中昭和二十四年度町民税の一部は消滅時効完成により右名東郡新居町の租税債権が消滅していると主張するけれども、証人菅村幸人の尋問の結果成立の真正を認めうる乙第一号証の一、二並びに証人菅村幸人、前川才一の尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、昭和二十四年度の原告に対する新居村村民税は一年一期で納期は同年十月頃であつたこと、同村は原告に対しその納期前に徴税令書を発したが原告が納税しないので翌昭和二十五年一月二十日を督促納期とする督促状を同月五日発付し、その頃同村督促状送達係員をして原告に右督促状を送達したことを認めることができる。この点に関する原告本人尋問の結果は措信することが出来ない。そうすると、当事者間に争のない昭和二十四年度分村民税の滞納により名東郡新居村の承継者たる新居町の町長がなした本件差押処分の日である昭和二十九年九月七日当時には、右五年の租税債権の消滅時効は未だ完成せず、依然右村民税の租税債権は存在するから原告の右消滅時効の主張は採用することができない。

次に被告の前主新居町長が原告の本件地方税に対し地方税法第三百二十九条等による督促状を送達しないで差押をした違法があるとの原告主張につき考えるに、本件地方税中昭和二十四年度村民税について滞納のため督促状が発布送達せられたことは前示認定のとおりであり、証人菅村幸人の尋問の結果いずれも成立の真正を認めうる乙第二号証の一ないし七、第三号証の一ないし九、第四号証の一ないし九、第五号証の一ないし五及び証人菅村幸人、前川才一の尋問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合して考えれば、名東郡新居村長(昭和二十七年一月一日以降は新居町長)は原告に対する本件地方税中、昭和二十五年度以降の各地方税につき別紙目録(三)記載の督促状発付日頃いずれも同村(昭和二十七年一月一日以降新居町)の督促状送達係員により送達せられたことを認め得べくこれが認定を左右するに足る原告の立証は存しない、尤も右認定の通り右督促は地方税法第三百二十九条、第三百七十一条、第四百五十七条所定の督促状発布期限後に為されているが右規定中督促状発付期限に関する部分は所謂訓示規定で従つて該期限後に為された督促も本件差押処分の効力に何等影響を及ぼさぬから原告の本主張は採用しない。

続いて督促に当つては送達書を作成しこれに受取人の署名捺印を要するとの原告主張について考えるに、督促状送達に当り送達書を作成してないこと従つてこれに送達受取人の署名捺印を得ていないことは被告の認める処であるが本件租税は地方税法に基くものであり同法、或は新居村又は新居町の制定した条例中にも督促状送達に当り送達書を作成する規定なく又国税徴収法第九条同法施行細則第十八条の規定を準用する規定もなければこれを準用しなければならない理由もないのでこの点に関する原告の主張は理由がない。

次に督促状の指定納期限後六十日を経過して差押処分したのは新居村税賦課徴収条例第十二条又は新居町税賦課徴収条例第二十二条の各強行法規に違反したものであるとの原告主張について考えるに、本件地方税の督促納期限はいずれも昭和二十九年二月二十日以前であり本件地方税の差押処分が昭和二十九年九月七日であることは当事者間に争がなく、従つて右条例の規定する指定納期限たる六十日を経過して差押処分がなされたことは明かである。然しながら右各条例の規定は地方税法規を円滑に運用実施するための訓示規定であつて強行法規ではないから、右各条例の規定違反は右差押処分の効力に影響を及ぼさず有効であると解する。よつてこの点に関する原告の主張も採用することができない。

よつて原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小川豪 宮崎福二 村上博巳)

(別紙省略)

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